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目とメガネに関する豆知識

緑内障とは、眼圧(眼内の水圧)の上昇により視神経が圧迫され徐々に失われる病気です。白内障とともに一般によく知られた眼科の疾患名ですが、正しく理解している人は少ないと思われます。それどころか、「緑内障」と聞くと明日にも失明するのではないかと心配し、慌てる人も多くいます。しかしほとんどの緑内障は、初期には全く自覚症状がなく、10年、20年とかけてゆっくり進行するタイプで、きちんと治療管理すれば失明する心配はまずありません。
では、緑内障に対する理解を深めることからはじめましょう。



■1.緑内障はなぜ起こる


眼球はゴムボールのような形をしていますが、中に内容物があり、一定の硬さ(眼圧)を保っています。眼圧を保つのに一番重要なのが、「房水」という眼の中の液体の流れです。図の矢印のように、房水は毛様体で作られ、隅角(水の出口)に存在するシュレム管から静脈管へと流出してゆくのが主なルートで、およそ100分ですべて置き換わるようになっています。隅角からの水の流出が悪くなると、房水が前房にたまり眼圧が上がります。その状態が続き視神経に影響する状態を緑内障といいます。



■2.緑内障の種類


緑内障は、先天異常によるもの、老化に関連して起こるもの、他の病気が原因で起こるものなどがありますが、「隅角」が広く開放されている(開放隅角)か、狭く閉塞しているか(閉塞隅角)かで、大きく二つに分けられます。解剖学的に広い人と狭い人とがもともと先天的に存在する(狭い人は西日本に多いとの調査がある)ほかに、炎症や、水晶体の盛り上がり、血管の新生など様々な理由で後天的に狭くなることもあります。


▼閉塞隅角は急性緑内障を起こしうる


緑内障が「すぐに失明する病気」だというイメージを植え付けたのは、急性緑内障です。急性緑内障発作は、何らかの理由で房水の流出が阻害されて眼圧が急速に上昇し、激しい頭痛、吐き気といった症状が出ます。このときは眼の痛み、かすみ、あるいは虹視(電灯の明かりを見たときに回りに虹が見える)といった眼の症状も出るのですが、他の症状に気を取られ、内科や脳外科を受診して手間取り、気付いたときには失明ということさえあります。このような症状のとき、眼球の瞳孔部分が濁って緑色に見えるという古代の観察から、「緑内障」という名称が定着したようです。
さて、この急性緑内障は閉塞隅角において圧倒的に多く起こります。また、糖尿病網膜症、種々の網膜血管障害で新生血管が生じるといった過程で、開放隅角が次第に閉塞隅角に移行する時期に起こることもあります。これらは、眼科の救急疾患であり、ただちに眼圧を下げる処置や手術が必要です。
また、先天的に隅角が狭い人では、このような急性緑内障を起こさせないための予防として、レーザーなどで虹彩に小さな穴をあける手術や、水晶体手術(白内障のときに行う手術。行うと隅角は広くなるため、隅角の狭い場合は、白内障がまだあまり進んでいなくても選択されることもある)を行うといった対策もあります。
なお、胃の内視鏡検査時に用いる薬やその他種々の薬剤の中には、隅角の狭い人が使用した場合に緑内障発作を誘発する可能性があるものがありますので、しばしば問診で「緑内障はありませんか」と聞かれるわけです。


▼緑内障の大半を占める「開放隅角緑内障」


日本における緑内障の有病率は、疫学的調査で40歳以上の3.5%と推定されており、その90%は「開放隅角緑内障」です。
開放隅角緑内障では、水の通り道である隅角は開いているのですが、隅角にある排水路(シュレム管)が目詰まりを起こして水が外に流れにくくなったために眼圧上昇を生じます。個人差はありますが、一般に非常にゆっくりと視野の感度が低下していきますので、かなり進行しないと病気に気付きません。その為、気付いたときにはすでに視神経が弱り、視野欠損がかなり進んでいる患者さんも大勢いらっしゃいます。
また、開放隅角緑内障の中でも、眼圧(正常値は10~20mmHg)が21mmHgを越ない「正常眼圧緑内障」が非常に多いことがわかりました。開放隅角緑内障と同様の視野欠損を生じますが、眼圧だけでなく、循環障害や、環境因子など多くの因子が関係する病気として注目されています。しかも、正常眼圧緑内障は、緑内障の中で日本人では最も多いタイプとされており、このため、従来、開放隅角緑内障の診断には「眼圧」、「視神経乳頭所見」、「視野検査」が大切な要素でしたが、このうち「眼圧」の診断への重要度は低下しています。
治療で科学的実証があるのは、正常眼圧緑内障を含めて、眼圧を下げることです。これにより、進行の速度を遅らせることができます。通常は緑内障点眼薬を単剤(プロスタグランディン製剤が第一選択薬とされる)から始めますが、眼圧や、視野異常の進行度などをみながら、必要なら他の薬理作用を有する2剤、3剤以上を使用する場合や、他剤に変更することもあります。それでも十分なコントロールができない場合は、手術が併用されます。
なお、隅角が開放している緑内障の特殊型として、ステロイド薬の点眼や全身投与などに伴って生じる「ステロイド緑内障」があります。ステロイド薬に対するレスポンダー(副作用を起こしやすい人)は30%に及ぶという説もあり、使用者では眼圧の推移に気を配る必要があるわけです。



■3.緑内障はどのように見つける?


開放隅角緑内障は、早期に発見して早期からコントロールすればあまりおそろしい病気ではありません。ただ、開放隅角緑内障の初期には、自覚症状が全くないのが特徴のひとつであり、従って自分で発見することはできません。視野がおかしい、などと自覚をもとに発見される場合は、すでにかなり進行してからとなり、すぐに治療を始めても簡単には進行が止まりにくいことがあります。とくに、強度近視は、緑内障発症の危険因子なので注意が必要です。
では、どのように注意をすればよいのでしょうか。まず40歳を過ぎたら、眼科健診を含む企業健診や地域健診、人間ドックなどを積極的に受けることです。ただし、こうした健診では眼科医がそこにいて直接診断するわけではなく、あとで眼底写真を見て、視神経乳頭に存在する陥凹所見などから緑内障と疑わしいものをピックアップするのです。ですから、緑内障でないものも少なからずひっかかります。



■4.セカンドオピニオンも大切


緑内障は、典型例や進行例では診断は容易ですが、初期の例では医師の意見が分かれることが少なからずあります。また、一旦診断されると、一生治療を続ける必要があり、眼科に通院し続けなければならない病気ですので、初期診断は極めて慎重に行われるべきです。けれども、正常眼圧緑内障が日本人には多いことがわかって以来、眼圧の値の診断への利用価値が落ちていることもあって、私の外来でも緑内障と誤診されている症例が散見されるのが実態です。
緑内障の初期かと疑われたり、診断された場合は、セカンドオピニオンと言って、別の専門医の診断を受けてみるという選択肢もあることを、皆様には知っておいてほしいと思います。




監修:医療法人社団 済安堂 井上眼科病院院長 若倉雅登