快適視生活応援団目とメガネに関する豆知識目の健康 目の病気 > ~赤と緑が見えないって本当?~ 色覚異常

目とメガネに関する豆知識
もうすぐ風薫る5月。いい季節になってきましたね。
デジタルカメラなどを片手にドライブにでかける方も多いかもしれません。

たとえばデジタルカメラなどで写真を撮る際に、ちょっとした光の加減や、カメラの補正機能などを変更すると色の見え方が違って見える、という経験はけっこう多くの皆さんがもっているのではないでしょうか。

実際のところ、ある「色」について、皆が皆同じ見え方をしているとは限りません。今回はその色がちょっと違って見えてしまうという「色覚異常」についてお伝えします。


■1. 色覚とは

たとえば私たちがリンゴを見て、「赤いリンゴだな」と判断させる役割を果たしているのは、眼底の網膜にある視細胞です。
視細胞のうち、円錐(えんすい)の形をしている錐体(すいたい)細胞が色を感じる細胞です。
この細胞には「赤錐体」「緑錐体」「青錐体」の3種類があり、赤・緑・青という三原色に対して、感度の高い視物質蛋白を有しています。このことは18世紀後半から推論されていましたが、その遺伝子が見つかったのは1990年代で、ごく最近のことです。この3種の錐体にある視物質蛋白が刺激されることで、人はすべての色味が感じられる仕組みになっています。これを色覚といいます。

■2. 色覚異常とは

視物質蛋白の遺伝子に異常が生じれば先天色覚異常になりますし、網膜のさまざまな病気によって錐体が壊れ、色味がわかりにくくなれば、後天的色覚異常ということになります。

■3. 先天的色覚異常

先天的赤緑色覚異常は色覚異常の中でもっともよく見られるもので、日本人男性には5%、女性は0.2%にみられます。なぜ男女差があるのでしょうか。

赤緑色覚異常は、赤錐体と緑錐体の視物質蛋白の遺伝子に異常をきたすことによって出現することがわかっています。その遺伝子はXとYの性染色体のうち、X染色体にあります。
性染色体は父母から1つずつもらい、XとYをもらえば男性、XとXをもらえば女性と決まります。

ここで上記2種の視物質蛋白の遺伝子に変化があるX染色体をX*と書くことにします。母親がXX*のキャリア(=色覚異常でないが、色覚異常の遺伝子を1つ持っている)だったとしましょう。もし、母から子供に運悪く色覚異常のX*遺伝子が伝わって、X*Yとなったとしましょう。この子供は赤緑色覚異常を持つ男子となります。

しかし、子供が女の子で、父親が赤緑色覚異常でなければ、母からはX*、父からは正常なXをもらいますのでX*Xとなります。この場合は、正常なXでカバーされて色覚異常は発現しないのです(ただし、キャリアにはなります)。
つまり、女子の場合は父が赤緑色覚異常である場合に限り、X*X*の赤緑色覚異常が出現しうるのです。
赤緑色覚異常はX染色体劣性遺伝という遺伝形式をとるので、このような男女差が出るというわけです。

■4. 赤緑色覚異常者の見え方

色覚には個人差がありますが、これも遺伝子で規定される視物質蛋白の少しの違いで説明できるようです。
しかし、個人の感ずる微妙な色感覚を、普遍的な言葉で表現することは非常に難しいことです。

赤緑色覚異常者は「赤と緑の区別がつかない」と思われがちですが、実際はそう単純なものではありません。意外に思われるかもしれませんが、赤緑色覚異常者が信号を間違う、という例はまずないのです。
それは、色覚異常といっても軽度、中等度の場合が圧倒的に多いことと、人は日常生活で、色味以外の明度、彩度、形、位置、表面反射など種々の手がかりを使用できるからです。
ただ、周囲にいろいろな色が雑多にある中から特定の色をみつけるのが難しかったり、特に薄い色の認識が難しいことはあるようです。



■5. 先天色覚異常者に対する理解

色覚異常は相当重度でない限り、通常の日常生活には影響がほとんどありません。以前は、先天色覚異常の発見に小学校で毎年色覚検査が強制で行われていました(現在は廃止)。しかし「色覚検査」は日常生活ではほとんどありえないような難しい条件下での検査です。最近は、色覚検査の結果は職務遂行能力を反映するものではないとの厚生労働省見解もあり、職種の制限は非常に減っています。

童謡『ぞうさん』や、オペラ『夕鶴』で知られる作曲家の故團伊玖麿氏は、自ら先天色覚異常であることを公表して、色覚異常への差別に異議を唱えました。
先天色覚異常を有する人にコンプレックスを持たせたり、差別するのではなく、特性を理解し、能力を伸ばし、色覚異常者にも優しい社会環境を整備することが大事なことだといえるでしょう。


監修:医療法人社団 済安堂 井上眼科病院院長 若倉雅登