この連載は、お茶の水・井上眼科病院 若倉雅登院長に書いていただいております。
「1.子供の視力の測り方」
「2.子供の視力の発達」
「3.子供のうちからメガネなんて」
「4.弱視とメガネ」
以上の4回の連載でお届けしております、若倉院長の「子供の目についての豆知識」。
今回はいよいよ連載最終回、「弱視とメガネ」についてのコラムです。
前回、子供のうちにぼやけた像でものを見ていると、「弱視」になる可能性があることが分かりました。では、両眼同様に刺激が入りにくい場合と、片眼だけに刺激が入りにくい場合、どちらが「弱視」になりやすいのでしょう?
人間が両眼でものを見ているのには、やっぱりワケがあるようです。
詳しくはコラムをご覧くださいね。
~弱視とメガネ~
▽1.弱視の種類
強い遠視、近視や乱視があるのに、子供のときにメガネをかけなかったために生ずる弱視(眼球に病気がないのに、視力がでにくい状態)を「屈折性弱視」ということを、前回説明しました。
屈折性弱視は、両眼に生ずるものですが、10歳未満で見つけて正しいメガネをかければ、比較的治りやすいものです。今回は片目だけ弱視になって、なかなか治りにくい弱視についてお話しましょう。
とりあげる弱視は、より治りにくいものから順に列挙しますと、
○視性刺激遮断弱視 ○斜視弱視 ○不同視弱視 の3種類になります。
▽2.視性刺激遮断弱視
視機能は、外界からの視性刺激が生直後からの大事な時期に入力されることによって、はじめて正常に育つことは、これまでに説明しました。
このむずかしい名前の弱視は、その視性刺激が何らかの原因で遮断されることで生ずる弱視です。
特に問題なのは、視性刺激が片眼だけに入力されるような事態です。
この場合、視性刺激が入らない方の目には間違いなく弱視が発生します。両眼同様に刺激が入りにくい場合に比べ、片眼だけに刺激が入りにくい場合のほうが、圧倒的に弱視になる可能性が高いのです。このメカニズムは、実は後に述べる他の弱視にもあてはまる、基本原則です。
この原則のため、生後から3~4歳くらいまでは、眼科医は不必要に眼帯を使いません。
それは片眼の視性刺激を人為的に遮断することになるからです。この時期では、1日眼帯するだけでも、弱視が発生する可能性があると考えられます。
眼帯でなくとも、例えば、片眼に先天的に眼瞼下垂(瞼がさがっている状態)や先天白内障があった場合も、程度にもよりますが、同様のことが生ずる可能性もあるわけです。
▽3.斜視弱視
人間はだてに両眼があるのではなく、両眼でものを見て初めて距離感や立体感を得ることができます。これを両眼視機能といい、人間のような高等動物にしか発達していない機能です。
斜視とは、視線がまっすぐでない状態ですが、学問的には両眼視機能が十分に発達していない状態と定義されています。つまり、斜視があると優位眼(利き目)ばかりで見るようになり、非優位には視性刺激が入りにくくなり、弱視になっていくのです。
▽4.不同視弱視
例えば、右目は正視(近視、遠視、乱視がない状態)で、左眼は強い遠視だったとします。このような左右眼の屈折に著しく差がある状態を、不同視とよびます。
この例の場合、遠方も近方もピントがあわせやすい正視眼で見ることになります。
そうすると、強い遠視の左眼は、あまり使いません。つまり、視性刺激の入力が乏しくなるため、視力の育ちが悪くなるのです。これが、不同視弱視です。
▽5.弱視にメガネは必須
以上のような弱視の治療には、まず完全に矯正されたメガネを、できるだけ早くかけることが先決です。
早く、という意味は、何度も言いますが、視機能は子供のそれも小さい時期にしか発達できないからです。メガネ矯正と同時に、弱視の原因となりうる、斜視、先天白内障、眼瞼下垂に対する手術を含めた治療も適宜行われます。
井上眼科病院院長 若倉雅登
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